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前回のコラムでは、「令和3年度税制改正大綱」における電子帳簿保存法(以下、「電帳法」という)の令和3年度改正の概要について書きましたが、その後、令和3年7月に国税庁から取扱通達(趣旨説明)と一問一答が発表され、運用面の詳細も判明しましたので、その内容についてお知らせしたいと思います。
また、同年11月に国税庁から追加の一問一答が発表され、さらに同年12月には政府与党から「令和4年度税制改正大綱」も発表され、令和4年度の電帳法の改正内容についても概要が判明しましたので、これらの最新情報についても触れたいと思います。
電帳法には、電子帳簿保存と電子書類保存、さらにスキャナ保存、電子取引の取引情報保存の4種類の保存種別がありますが、もともと電子取引を除いて承認制度があり、所轄の税務署長に承認申請を行うことにより、特例として電子保存が可能となっていました。令和3年度電帳法改正では、この承認制度が廃止され、施行日(令和4年1月1日)以降に行う国税関係帳簿書類の備付け、及び保存については、それぞれの保存要件を満足させることにより、承認申請が不要で電子保存することが可能となりました。
しかし、承認制度が廃止されますが注意も必要となります。それは、保存要件を満足せず電子保存した場合、保存した電子データは国税関係帳簿書類とは見なされなくなり、例えば、消費税の仕入税額控除が否認される場合があるということです。施行日以降に帳簿書類を電子保存する場合は、従前よりも一層それぞれの電子保存要件を理解、遵守し、保存する必要があります。
また、今回の改正では、その他にも大幅な要件緩和が行われておりますので、それぞれの電子保存制度の改正内容について、以下に解説します。
承認制度の廃止の他に、優良電子帳簿とその他の電子帳簿の2種類の電子帳簿保存が認められました。優良電子帳簿においては、従来の要件(検索機能は見直し後の要件)を充足して、届出書を提出することにより、過少申告があった場合には、過少申告加算税の5%が軽減されるインセンティブ措置が適用されます。
しかし、このインセンティブ措置が適用されるためには、その適用を受けようとする税目ごとに保存を行うべき全ての帳簿について、電子保存を行っている必要がありますので注意が必要です。
その他の電子帳簿については、正規の簿記の原則に従って記録し、システムの概要書等の備付け等の最低限の要件を満たす場合には、電子データのまま保存することが可能となります。また、対象の帳簿データについて、税務調査の際、税務当局からの質問検査権の行使として行われるダウンロードの求めに応じることが要件とされました。
その他の保存要件については、下図の「国税関係帳簿書類の保存要件」をご覧ください。
<国税関係帳簿書類の保存要件> (令和4年1月1日以後に備付・保存分)
要件 | 優良帳簿 | その他の帳簿 | 書類 |
システムの概要書等の備付け | ○ | ○ | ○ |
見読可能装置の備付け等 | ○ | ○ | ○ |
ダウンロードの求めに応じること | △ *1 | ○ *2 | △ *3 |
訂正・削除・追加の事実及び内容を確認することができるシステムの使用 | ○ | ||
帳簿間での記録事項の相互関連性の確保 | ○ | ||
取引年月日、取引金額及び取引先を検索条件として設定できること | ○ | △ *3 | |
日付又は金額の範囲指定により検索ができること | ○ *1 | △ *3 | |
二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索ができること | ○ *1 |
書類の場合は、承認制度の廃止の他に、ダウンロードの求めに応じることができるようにしておくことで、改正前に求められていた検索機能の確保の要件は不要とされます。なお、検索機能の確保に相当する要件を満たしている場合には、「ダウンロードの求めに応じること」の要件は不要となります。
その他の保存要件については、(1)の「国税関係帳簿書類の保存要件」をご覧ください。
承認制度の廃止の他には、受領者等が入力する場合の自署の廃止や、入力期限が最長2ヶ月と7営業日以内に統一されます。さらに、訂正・削除履歴の残るクラウドサービス等を利用し、入力期限までに入力されたことが確認できる場合はタイムスタンプ要件が不要になります。このタイムスタンプの代替え要件は、例えば、他者が提供するSaaS型のクラウドサービスが稼働するサーバ(自社システムによる時刻の改ざん可能性を排除したシステム)がNTPサーバ(ネットワーク上で現在時刻を配信するためのサーバ)と同期しており、かつ、スキャナデータが保存された時刻の記録及びその時刻が変更されていないことを確認できるなど、客観的にそのデータ保存の正確性を担保することができる場合が、これに該当することになります。
また、運用の難しさから導入を阻害していた適正事務処理要件が廃止され、入力後直ちに書類の廃棄が可能になるほか、検索要件についても検索項目が取引年月日その他の日付、取引金額、取引先名に限定され、税務当局のダウンロード要求に応じる場合は、範囲指定や組合せ検索も不要となります。
しかし、このように保存要件を大幅に緩和する一方で、保存している電子データに関して改ざん等の不正が把握されたときは、重加算税が10%加算されることになり、今回初めて明確な罰則規定が定められることになりました。
その他の保存要件については、下図の「スキャナ保存の保存要件」をご覧ください。
<スキャナ保存の保存要件(概要)> (令和4年1月1日以後の保存分)
要件 | 重要書類 | 一般書類 | 過去分重要書類 |
入力期間の制限(速やか又は業務サイクル後速やか) | ○ | ||
一定水準以上の解像度(200dpi以上)による読み取り | ○ | ○ | ○ |
カラー画像による読み取り(RGB256階調フルカラー以上) | ○ | *1 | ○ |
タイムスタンプの付与 | ○ *2 | ○ *3 | ○ *3 |
解像度及び階調情報の保存 | ○ | ○ | ○ |
大きさ情報の保存 | ○ *4 | ○ | |
ヴァージョン管理(訂正又は削除の事実及び内容の確認) | ○ | ○ | ○ |
入力者等情報の確認 | ○ | ○ | ○ |
スキャン文書と関連する帳簿との相互関連性の保持 | ○ | ○ | ○ |
見読可能装置(カラーディスプレイ・プリンタ)の備付け | ○ | *1 | ○ |
整然・明瞭・拡大縮小出力、4ポイント文字の認識 | ○ | ○ | ○ |
システム概要書、操作説明書、事務手続き書等の備付け | ○ | ○ | ○ |
検索機能の確保(取引日付、取引金額、取引先に限定) | ○ | ○ | ○ |
その他 | *5、*6 |
タイムスタンプの付与期間が、現行の授受後遅滞なくからスキャナ保存と同様に最長2ヶ月と7営業日以内になり、検索要件も同様に検索項目が取引年月日その他の日付、取引金額、取引先名に限定され、税務当局のダウンロード要求に応じる場合は、範囲指定や組合せ検索も不要となります。加えて、判定期間における売上高が1,000万円以下である事業者が、税務当局のダウンロード要求に応じる場合は全ての検索要件が不要になります。
一方で、現行では取引データを書面で出力して紙で保存することが認められていましたが、この出力書面については税法上の保存書類と認められないことになり、施行日以降に電子取引を行った場合は、電帳法の要件に従って取引情報を電子データで保存する必要があります。しかし、追加の一問一答で、「これらの取扱いについては、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。」との補足説明が行われました。さらに、令和4年度税制改正大綱では、この取り扱いが2年間猶予されることになる予定で、追加の一問一答も併せて、当面は出力書面での保存が認められることになりました。
また、スキャナ保存と同様に、電子データに関して改ざん等の不正が把握されたときは、重加算税が10%加算されることになります。
その他の保存要件については、下図の「電子取引の取引情報の保存要件」をご覧ください。
<電子取引の取引情報の保存要件(概要)>(令和4年1月1日以後の取引分)
要件 |
次のいずれかの措置を行う イ タイムスタンプが付された後の授受 ロ 授受後速やかに(業務サイクル後速やかに)タイムスタンプを付す※ ハ データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム又は訂正削除ができないシステムを利用 ニ 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け |
システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発のプログラムを使用する場合に限る) |
見読可能装置の備付け等 |
検索機能の確保(取引日付、取引金額、取引先に限定) |
※ 業務サイクル後速やかにの取扱いは、取引情報の授受からタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。
以上で、令和3年度電帳法改正についての解説は終わりますが、今回の大幅な改正で帳簿書類の電子保存のハードルがかなり下がったと思われますので、ぜひ電帳法を正しく導入して、経理業務のDXを推進していただきたいと考えています。
しかし、まだまだ電帳法の保存要件には難解な部分もありますので、さらに導入のハードルを下げるために、日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が、電帳法に準拠するソフトウェア製品を認証する制度を実施しています。この認証を受けたソフトウェア製品を使用することで、安心して帳簿書類の電子保存が可能となりますのでお薦めです。この認証製品のリストは、JIIMAのWebサイトで公開されていますし、国税庁のWebサイトでも「JIIMA認証情報リスト」として公表されていますので、参考にして下さい。
※ JIIMA Webサイト;https://www.jiima.or.jp/certification/
※ 国税庁Webサイト;https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/11.htm
なお、次回のコラムは、令和5年10月からスタートするインボイス制度や、2年後に延期される予定の電子取引情報の電子データによる保存義務化を見据えて、「電子メールによる電子取引データの保存について」のテーマで解説したいと思います。
株式会社 ジェイ・アイ・エム
顧問 甲斐荘 博司
(JIIMA専務理事)
※2022年1月執筆時